私は幼稚園の園長で教会の牧師でもある。日々の出来事のなかで、腹立たしいことがあっても、感情に任せて表現することは立場上まずない。そして溜まったストレス解消のために毎晩ビールを飲む。そういうわけで数年に一回の健康診断は恐怖である。特に肝臓に関する数値が黄色信号で済むか、赤が点灯するかが難関である。
##運の良さ##
2022年9月に開催された東京都私立幼稚園PTA連合大会の第二部は脳科学者の中野信子先生の講演だった。題目は「子育て・教育に活かす脳科学」。結論は「頭の良い子を目指すよりも、運の良い子に育てよう」であった。ポイントは、昨日と今日の違いに気づけるかどうか。気づけるならば、運の良い人に育っていくだろう。例えば園生活だと、保育室の掛時計の位置が変わったことに気づくなど、何か昨日と違うことに気づけるならばこの世でサバイブできる力を身に着けられるかもしれない。
##運が悪い?##
私の友人で、新聞社のカメラマンがいる。彼はシフトの時差出勤した日の夜、トランプ大統領による対米関税が発表されたのでその日の勤務は長くなると腹を括っていたところ、同僚や上司から、今日はこれ以上の情報は出ないのでもう帰っていいと言われて退社したのが夜10時。徒歩で帰っている時、歩行者信号のない道を横断している途中、大型バイクが体の左側から衝突した。バイクの運転手は19歳の男性。ブレーキを踏んだ痕跡がなかった。
彼は吹っ飛ばされた。しかし着地した時に意識はあったという。まだ生きているから生き延びなければならない。道路交通事故では後続車両に牽かれることが死因になることが多いので、それだけは避けたいと考え動こうとしたが、下半身が全く動かないので諦めた。何ができるだろうかと思いめぐらす。その時に何が起きたか?
緊急事態に気がついた走行車が、彼を覆い囲むように道路に停車し、ハザードランプを点けて守ってくれたそうだ。ジャーナリズムの世界に身を置く友人の回想談は「日本も案外捨てたものじゃない」。そしてERで搬送され、緊急手術で致死的な出血多量から生還した。頭を打たず、背骨も損傷していないので、この世の暮らしに復帰できそうだ。医者からは「あなたは運が良い」と言われ続けたそうだ。
彼もよく酒を飲んだ。三ヶ月半に及ぶ入院期間は絶酒生活だった。見舞いに行くと、「早くビールが飲みたい」と言っていた。彼は、腰骨が砕け左下半身を甚大に損傷したものの、内臓の数値は著しく改善したことだろう。しかし、ダラダラと平和の中で飲み続けている私の内臓の数値は次の健康診断で逆を示すかもしれない。
何が言いたいか、というとそれは「運が良いとは何か?」。それは生き延びることである。どんなことがあっても命を失わない。それを守るのが園生活の時間であり、幼稚園で子どもに最も身につけてほしい能力ではないだろうか。
運の良さがあれば、この世で生きていける。神様に与えられたこの世の命を軽んじず大切にすること。それが神様の御心をこの世で行うことにもつながることだろう。


